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ただひとつの思いと破局。まずはあらすじからどうぞ。



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このドアを開けるのは、日常的な行為の一つである。

すぐ右手に見える大きな本棚に規則正しく並べられた分厚い本たち。
窓際に面して置かれた机の上に転がったネーム入り万年筆。
クローゼットの中には、見覚えのある服がゆったりと納まっている。

この部屋の主の趣味であろういくつもの小さな動物の置物が並べられているのは、腰程の高さの装飾を施されたアンティーク棚である。差し込む朝日がカーテンを透け、それらの目にはめられたガラス玉に輝いて眩しい。

一目見て相当古い型だと見受けられる模型飛行機が床に落ちていた。落ちた衝撃からか、左翼が割れてしまっている。
散らばった欠片までも美しく見えるのはデザインのせいだけではない。こまめに手入れを施されて得たつややかさからは持ち主の愛情が見て取れた。

それらひととおりを目に納めるとドアを静かに閉め、1階に降りる。



キッチンの一角に置かれた、コーヒー豆の袋に隣り合う紅茶缶。
それらを淹れるためのカップは、いつもどおりに同じ棚で並んでいる。
冷凍庫には開けたばかりのボックスアイスにぽっかりと穴が2つ。
テーブルには2人分の朝食が用意されているが、どちらも手をつけられた様子はない。

キッチンを抜けると、使いかけの歯ブラシと歯磨き粉、シェービングクリーム、コームなどがそれぞれ二組ずつ並ぶ洗面台が見える。
比較的広めのバスルームにも同じように、シャンプーやトリートメントが主を待っている。シャワーヘッドから滴り落ちる名残が今唯一の住人だ。


長年付き添ってくれている使用人は花咲乱れる庭の手入れに勤しんでいる最中で、気づいてはいない。この家が昨夜と違うということに――ひとつだけ足りないものがあることに。
それはある一室の主であり、この邸でただ一人紅茶を好む人物であり、2組揃えられた物たちの片方を使用する者であり、昨夜まで当たり前のようにここで暮らしていた、先住民を祖先に持つ青年。

そして彼は唯一の、自分の恋人だった者。

- - - - -

ある朝、消えるように住み慣れた邸を後にした。
何もかも、恋人さえも残したまま。
それは残した全てをここに封印するということと同義であった。

残せなかったものがある。
手元に残ってしまったものがある。
その2つだけは残さざるべきものであり、そして残るべくして残ったものだ。
それは君がくれた全てであり、君との全てなのだから。

君は近いうちに俺と同じようにするだろう。
その時、この2つだけはきっと、

きっと君の手元にも残るだろう。






そう、信じている。
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「やっほ~!撮影で近くまで来たから遊びに来ちゃったぜ~」



太陽がじりじりと地面から水分を奪っている日中、汗をだらだらと流しつつ、ハリウッドスターが村にやってきた。

村から少し離れた地で、一人何かしていたらしいタタンカを見つけて、駆け足で寄ってくる。





「バッド!連絡してくれたら迎えに行ったのに」



お互い握手をして、汗と砂に「うわっ」と笑い合う。





「新作映画見たよバッド!面白かった」

「え?!まじで?近くの映画館まで500キロくらいあるって」

「バッドの新作の為なら行くよ!最近娘なんて「バッドのおじちゃん格好よかったんだ」とか言う位はまっちゃって」

「ま じ で !俺ちょっとキスしに行くわ」

「ハッハッハッ!させるか」





軽口を叩きながら村へ迎う。懐かしさに今日は肉を出すかな、等と考えながら、タタンカはふと足を止めた。



「…タタンカ?」

「……あの映画」

「うん?」

「もし、あんな風に平行世界が沢山あるのだとしたら、」





言葉が詰まる。タタンカも、自分も。

じりじりと太陽が水分を奪っている。背中に張りつくシャツが不快だ。

すべてが少しずつ違っているという平行世界。

無限の選択肢の数だけ広がっていく可能性。



その世界でなら、あるいは。





バッドは、先ほどタタンカが見つめていた方角を不意に思い出した。

遠い、それこそ遠い海岸線。遥か彼方。見えない筈の何か。祈るような姿勢で何を。

村から離れた、あの地で。





「ああ…今ここでお前の涙を止めているのは俺じゃないかもなぁ…」





太陽が暑い。

おいで、と両手を広げた先の胸の広さは決してタタンカが欲しているそれには足りないけれど。

彼が珍しく心折れ、そして自分はここへ来た。



その必然は、きっと感謝すべきだ。



何に?





何か、に。





「たまには泣いたっていいんだ。…辛いよなぁ…お前は頑張ってるよ。お前の頑張りを俺は知ってる。知っているから…」





声を上げて泣くタタンカを、抱き締めてやる事が出来てよかったと思った。

たとえこの涙の理由を根底から解決出来なくても、それでも張り詰めた孤独を、少しでも癒す手助けになったのだから。
※大前提※
・ドンとタタンカは高校時代から付き合っていた。
・同棲もしていて、一生添い遂げる気でいた。
・30代手前で、タタンカが出身の村から「青年の力が要る」と呼び戻される。
・それは村を救うためのもので、拒否権などはタタンカに無い。
・お互いに納得して、タタンカは村に帰る。ドンはタタンカが住みよい国にするために政界に入る。
・そして当たり前のように大統領になるドン。
・お互い結婚もする(タタンカは村の為、ドンも人並みに)

・付き合って別れるまで、その間10年。
(関係ないですが、このタタンカの瞳の色が橙です)


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

大人達に頼られ子供達に懐かれるタタンカを想像したら切ない。
時々ドンから手紙がくる。

多分タタンカが帰ってから会うことはなさそう。
手紙つってもハガキが思い出したように来るくらい。
ドンはいつも出すのためらってためらって、我慢して我慢して何年か毎くらいになる。
タタンカは返事だけとか。
母親を愛するように奥さんを愛する二人。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

就任演説で、聖書に手を置いてお決まりの誓いの言葉を述べるドンは神なんか信じてなくて、
自分の力で全て成し遂げる人だと知りながら中継見ているタタンカ。
ファーストレディや家族を公衆の面前に導く姿や仕草まで完璧なドン。
彼と過ごした歳月を覚えているのは自分だけでいいと、想っているのは自分だけでいいとお互い思っている。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ドンから手紙が来る度に胸が痛むタタンカなんだろ。まだ恋してる、って思うんだろ。
たまたま見たニュースでドンが大統領になってるのを見て子供に
「パパの…友達なんだよ」って言う。奥さんに「もしかして手紙の?」とか聞かれる。
バッドやクリフやパンサーは遊びに来るけどドンだけ来ない。
忙しいだけじゃ、ない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

遊びにきたクリフに、頭なでなでされて慰められるタタンカ。
クリフは察しすぎ。そんな優しい王子はタタンカとパンサーにしか発揮されません。
バッドは無遠慮で傷を素でえぐりまくってるといいと思います。
うっかり「何だよまだ好きなんじゃねぇの?」とか聞いて
「まさか」って答えたタタンカの表情読み取るくらいのスキルはあって、ごめんよぉぉぉって思う

パンサーも家庭があるからちょくちょくは来れないけど、本当にたまに来てばか騒ぎして行くといい。
何気ない一言がタタンカの心をちょっと軽くしたらいい。

ドンは、会ったら全て捨て壊してでもタタンカを奪ってしまいそうだから会わないんだ。
返ってきた手紙も読むか読まないか迷って、やっぱり負けて読んでしまって、凄く愛しそうにキスしてから鍵のかかる小箱にしまってしまう。
誰にも見つからない場所に隠すように置いている。自分の気持ちみたいに。

クリフォードもバッドもパンサーも、二人の気持ちをそれぞれに伝えたりしない。
元気そうだったよ、とだけ伝えて「そうか」ってそっけなく返ってくるのを待ってる。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

恋に生きる事が出来た若い頃と違って、二人の周りには他人の生活が押し寄せている。
それを助けようとする程、お互い遠ざかっていく。
次に顔を見たらそんな周りを全部蹴倒して踏み躙っても
抱き合って離れられないだろうから会わないって決めてるドンとタタンカ。
もちろん一度も話し合ってなんかない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ドンは、タタンカに関わるデータを住所しか残さないとか。
電話なんてできないし懐かしい写真見たら会いたくなる。
きっと昔旅行にも行ったんだろうけど、お土産の品とかはずっと二人の世話をしてくれていたメイド長にでも預けてしまったとか。

タタンカは、故郷に帰るときに思い出は全部焼却してきた。
でもどうしても一個だけ、どうしても、決意しきれなくて手放せなくてこっそり持ってる。
永遠の愛とかそんな目に見えないような、本当にあるかもわからないものを誓ってお互いに贈ったもの。
月並みに指輪でもいい。もっと別のものでもいい。
祈る対象が、神からそれに変わればいい。
信じてるんだ。自分を信じると、愛していると、何があろうと変わらぬ想いを捧げると言った相手を信じてるんだ。
家族の誰にも言わずにそっと、それを持って死ぬ決意だけ固めている。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

今まで一度もタタンカからの手紙なんて無かったのに、大統領就任してから「就任おめでとう。君ならより良い道へアメリカを導けると信じている」とだけ書かれたメッセージカードが来る。
秘書に「これはどうなさいますか?」って聞かれて「机の上に置いててくれ」って言うドン。
家に帰って改めてタタンカの字を見て「信じている」の文字を見て、ちょっと泣いちゃうドン。
お互いがお互いに「もしかして」なんて思っていない。
そんな期待なんて全部昔の幸せだった時に置いてきた筈だから。
でもタタンカは手紙を出してしまって、ドンは泣いてしまったんだよ。
「もしかして」じゃなくて、未だにこんなにも内で燃える相手への気持ちに、
いつまで経っても消えない自分の本心に泣いたんだ。筆を取っちゃったんだ。

二人の奥さんは何にも気付かないふりをする。夫が気付かないふりをしているのなら、私も何も知らない。
夜に一人で誰かを思って泣いているのも、大事にしている手紙の束も、食い入るように見ていたテレビも、
大好きだったろうアメフトの話題をそこそこに逸らすのも、気付かないふり。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

(タタンカの手紙)

「テレビ見たよ、ちょっとやつれたんじゃないか?」
「奥さんも子供も美人だね。子供は君に似て自信家そうな」
「君が夢を叶えるのを君のとなりで」
「今でも君の」
「ドナルド、君に会い」



…全部消した。

手紙は止めよう。綺麗な朝焼けの写真があった筈だ。

「就任おめでとう。君ならより良い道へアメリカを導けると信じている」

最後に迷って名前を入れた。聡い君が、どうかこの迷いに気付かないように祈るしかない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

(あるゴシップ誌)

バッド・ウォーカーの場合
「はぁ?あのドンが?今や我らが大統領のドナルド・オバーマンがゲイだって?
お前等の目は節穴か?あの女好きが男に走るなんて、神様がそうしろって言ったって断るだろうよ。
ついこないだだって俺とバーで美人を…っと、この話題はNGだったかな」


クリフォード・D・ウェラーの場合
「はっ!貴様等は次から次へと同性愛者へ仕立てあげたいらしいな。
何なら今の大統領を四六時中ベッドの中まで張り込み取材してみればいい。
俺から頼んでやろうかサニー?」

パトリック・スペンサーの場合
「えー!無い無い!これ絶対無いよー!
俺だって、ハイスクール時代の大統領って隣に美女連れて歩いてた記憶しか無いし!
愛妻家だしそんなドン…、と、大統領なんか想像も出来ないよ」

大統領就任時のあることないことゴシップ現象の一部。皆ドンとタタンカが大好きです。

タタンカは現地までの取材費が出ないから電話取材。

「彼が大統領になって嬉しいと、彼の友人なら誰もが思っている。
根も葉も無い噂で彼のイメージダウンを謀る気なら、会社の倒産と家族を不幸にする覚悟を決めてからするんだな。
○○社の雑誌■■の記者◇◇だな。神に祈れ」

って電話切って取材拒否。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

毎日笑顔でじゃれて、たまに喧嘩してお互い無視するけどやっぱりそんな日々に耐えられなくなって謝って、許して笑顔でじゃれて、
お互いに信じてもらえなくて悔しくて泣いたり、一緒に見た映画でも感動する所が違うのが嬉しかったり
お互い課題とかレポートとかに追われてヘロヘロになっても同じベッドで寝たら大丈夫とかそんな日々だった。
外からは分からないように凄く苦労して友達の顔をして、家に帰った途端二人とも大爆笑とか。

ドンは日常からタタンカだけが消えてしまって、ただそれだけで自分がどうやって真直ぐ立ってたのか分からなくなる。
姿勢がいいタタンカ。心が真直ぐなタタンカ。その隣に常にいた自分は、彼とぴたりとひっつきたいから真直ぐだった。

タタンカは、懐かしい故郷も懐かしい人たちすべても、たった一人にかなわなくて笑う。
もう弾けるように笑うことも、特定の誰かに煮え繰り返る程怒る事も、声が枯れるまで泣く事も自分には無いんだろうなぁって思う。
自分のなにかがゆっくりと枯れていく。
与えられていた栄養はもう思い出にしかない。



しんだらおたがいのとなりにうめてほしいと思っているふたり。そこが例え見知らぬ異国の地だって隣に相手さえいれば怖いものもつらいこともない。


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夢を見すぎだろって話です^ρ^
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